飽和したカー用品市場、価値観の変化の対応策にお客様視点=「女性視点」を導入、高い評価と次のチャレンジが見えて来た
株式会社タクティー
代表取締役社長 新井 範彦 氏
過去に囚われない、「お客様視点」の徹底研究
トヨタ自動車株式会社のアフターマーケット戦略も担いながら、「みんなのガレージ・カーパーツのお店からカーストーリーのお店へ。」を合言葉に、全国90店舗を展開するjms (ジェームス)の運営でも知られる、株式会社タクティー様。自動車購買者に占める女性の増加に伴い、メーカーも女性をターゲットにしたモデルを数多く販売する中、女性にも親しまれる店舗づくりを積極的に取り組まれている同社代表取締役社長 新井様にお伺いしました。
株式会社タクティー(現トヨタ モビリティパーツ株式会社)
代表取締役社長
新井 範彦 氏
<プロフィール>
昭和53年4月トヨタ自動車販売株式会社 (現トヨタ自動車株式会社)入社。平成15年6月同社国内マーケティング部部長、平成17年6月同社カローラ店営業本部部長、平成20年6月同社常務役員(カローラ店営業本部・レンタリース事業部他)、 平成23年6月株式会社トヨタマーケティングジャパン副社長、平成25年4月株式会社タクティー常勤顧問、同年6月より同社代表取締役社長。
共創プロジェクトのテーマ
カー用品の店舗は、男性客が多くなりがち。女性客が立ち寄りやすくするためには、女性社員の視点をもっと店舗に活かしていける体制をつくりたい。店舗づくり、商品企画に女性視点が効果的に活かせるように、女性視点マーケティングを導入し、実践できるようにしたい
共創プロジェクトの方向性
男性視点だった売場(男性視点=車好き男性) これを「女性視点=女性+ファミリー(男女)」 という新たな視点から取り組みの軌道を変更
導入成果
カー用品のジェームスの運営で知られるタクティーは、トヨタ自動車のアフターマーケット戦略を担っています。カー用品店は、女性が立ち寄りにくいイメージ。そこで、お客様視点=女性視点と位置づけ、高い評価を得ています。
INTERVIEW
■女性の気持ちをわからずして車のマーケティングはできない。カー用品も同じだと思う。
日野:今までカー用品店といえば男性のお客様が中心のイメージでしたが、社長に就任後、積極的に女性にも親しまれる店作り、商品開発に取り組まれていますね。
新井さん:ここ数年で、業界は大きく変化してきました。市販のナビ、タイヤそして車検などのメンテナンスをディーラーよりもお値打ちかつ魅力的な品揃えで展開してきたカー用品業界ですが、競合社との価格競争やネット販売などの参入により苦戦を強いられるようになりました。私に与えられたミッションは、飽和した市場と価値観の変化にどう対応していくのか。一言で言うと「お客様視点を徹底的に考える」。これを過去に囚われずに行うことです。
日野:お客様視点=(イコール)女性視点、ということですか?
新井さん:はい、従来はお客様視点=「男性」視点でした。私はトヨタにいたのですが、ファミリーにおける自動車購入の決定には奥様の意見が非常に大きい。女性の気持ちをわからずして車のマーケティングはできないと、トヨタは変わってきました。カー用品業界も一緒で、「男性」視点、「女性」視点を意識し、もっと色々なお客様が楽しめるような店舗にしていくと、まだまだチャンスは生まれると思って取り組んでいます。
日野:確かに車は家族で乗りますね。しかも旦那様より奥様のほうが時間的に多いかもしれません。
■「男性」視点から、「女性」視点を意識した店舗改革へ
日野:実際に「女性視点」に注目すると、どんなことが見えましたか?具体的には何を変えられたのでしょう?
新井さん:集客装置としての店舗を見直すところから始めました。カー用品店ではタイヤとナビは2本柱ですので、タイヤを入口に山積みにしている店舗が多かったのですが、ファミリーで来た時に、タイヤの臭いは大丈夫なのか、女性や子どもは怖くないのか、こんな地震の多い国で大丈夫なのか、というように、コーナーごとにお客様視点で見てきました。その結果、これまでの店舗は”車のことをよく知っている人が、自分の必要なものを買いに来る、そんな店だったということを認識したわけです。逆に言うと、それほど車のことも店のことも知らない人も楽しめる、呼びこめる店舗にしたらどう変わるか、という可能性の発見でもありました。
日野:それでジェームスは今のコンセプト(「みんなのガレージ」)に変えていかれるのですね。
■全91店舗中、どのくらいが新しいコンセプトの店に改装されましたか?
新井さん:40店舗です。2015年度には全店舗の改装を終えたいと思っています。しかし改装は、お客様視点でのマーケティングの中のハード面であり、手段の一つに過ぎません。お客様にどうサービスしていくのか、女性の方にもわかりやすい展示、陳列、商品説明といった、特に女性客への対応を全ての項目で見直すのが目的で、店舗改装はそのきっかけだと思っています。
■女性スタッフによる、女性向け商品開発。女性顧客向けDMの導入。
日野:女性向けのDMも作られていますね。
新井さん:会員情報で性別が識別できるので、内容は男性向けのものと同じでも、女性の目をひく色使いやデザインを試しています。また「gg(girl’s garage)」というプライベートブランドで女性向け商品の開発も行いました。これは女性スタッフを集めたチームで取り組みました。
日野:女性視点を「店舗戦略」と「商品戦略」の両方に取り入れることで、女性スタッフの方々の活躍の場も広がっていますね。
新井さん:「この店親切だね」「私の事をわかってくれてるわ」「友達にも紹介したいな」などと思っていただけるように、先ほど説明したソフト面と合わせ、店頭スタッフの対応などに取り組んでいます。また当社女性スタッフも自分達の価値観で商品を考えた場合、どんな商品が欲しいかの議論も進めています。
■現場が自らお店づくり。エリアサポートも強化
日野:お客様の評判はどうですか?
新井さん:ありがたいことに、お客様の評判、インナー的な評判のどちらもいいですね。ただお客様への対応など現場のスタッフの意識がもっと変わっていかないと、なかなか完成しないでしょう。やはり成果が出るまでには2、3年はかかると思いますが、継続していけば必ず成果は出ると信念を持ってやっています。実は四国の運営部がこの取り組みに共感し、四国のjms(ジェームス)の女性スタッフや事務局が一緒にミーティングをするといった展開が見られました。こうした動きが全国に拡がること、各エリアで「自分たちの手で変えていこう」と動くこと、これが目指す姿ですね。
日野:でも二本柱のうちの一つであるタイヤが山積みの店構えを変えるのは、かなりの決断では?
新井さん:もちろん調査もしましたし、モデル店でタブレットを使うなどの商談方法を試すなど、仕組みも総合的に考えました。1店舗、2店舗、3店舗と試し、ある程度いけると判断した上で踏み切りました。それでも現場では予想通りにいかないこともあり、常に発見と改善の繰り返しでした。各地の店舗からの相談に応じるエリアサポートと、事例別のマニュアルも手がけました。
■女性視点をきちんと研究していくことで男性視点も明確になってくる
新井さん:日野さんに教えていただいたとおり、女性視点をきちんと研究すると、男性視点も非常に明確になってくる。今まではフワッと、個別のターゲットを意識せずに全方向で考えてきましたが、女性視点に気付くとターゲットは「車好きの男性」「女性」「ファミリー(男女)」と大きく3つのジャンルがあったと気づいた。一つのターゲットをクリアにすることで、他のターゲットの特徴までもが見えてきました。もう一つ、これは私がずっと考えたことですが、「女性視点マーケティング」と「女性マーケティング」は違うということ。「女性視点マーケティング」は女性に限らずシルバーやシニア、最近多い車に興味のない男性の方の視点でもあると言える。しかし「女性マーケティング」の場合、女性といってもいろいろな方がいて、例えばクルマ大好き女子から主婦、独身女性まで様々な視点を意識するというか。これは間違えないよう、社内でも「気をつけよう」と言っています。
日野:2つの違いをよく分かってらっしゃいますね。
■「男子校」から「男性」「女性」それぞれに合う店へ
ターゲットを見据え土地に合ったエリアマーケティングの模索
日野:今回、御社のチラシなどのデザインに関する「ガイドブック」を制作させていただきました。その際「印刷物で男性と女性の違いがあるということが、改めて見るとよくわかる」とおっしゃっていらっしゃいましたが。
新井さん:基本的にカー用品業界というのは、高校生に例えて言うと「男子校」だったんです。これを「男女共学」というコンセプトに変えようという話なのですが、全て「男女共学」にするというと、それはまた違います。一つの店舗でいろんな方に対応できる体制にしたいけれど、フワッと全体を見てはダメで、今は男子校から男女共学に、さらに言えば「男子組」もあれば、「女子組」もあれば、「男女共学組」もあるという分け方にした方が、よりjms(ジェームス)の店舗作りにはフィットするのかなと思っています。これは店舗の中のコーナーでも言えることだし、チラシやDMもそう。車好きの方用のページもあるし、女性コーナーもあるし、というような事ですね。そういう目で見てみると、ユニクロ等他業種の小売業もそういうのを意識されているのがわかります。いろんな方に来てもらうには、それぞれが、別々に喜んで頂けるようなページ構成や訴求の仕方を意識してやっていかなければならないんだと。ハー・ストーリィさんのお陰で勉強させてもらいました。
日野:これから2年目ですが、さらにバージョンアップされるのが楽しみです
新井さん:マーケティングは「お客様視点」と世の中や時代の変化をどう捉えるか、なのでそこを変えるとどんどん変わってきます。競合他社のマーケティングも変わるし、ひょっとしたら競合他社はカー用品店だけではなくて他の小売業かもしれない。効率化も含めながら、よりターゲットが反応するようなチラシやDMの紙面、普及方法にも、もっと切り込んでいきたいと考えています。もう一つは、エリアマーケティングです。プロモーションコストを睨みながらその土地に合った商品をどうアピールしていくのか、店舗対応も含めて推進していきたいですね。
■ハー・ストーリィに期待することは「今ある商品の魅力をどう伝えていくかという、サービス開発」
新井さん:御社の得意な女性戦略という武器、それをますます磨いていただきたいのと同時に、女性視点を知ってるということは男性視点もわかっていらっしゃるということなので、トータルのサポート、小売業域改革みたいなことをやっていただきたいなと思います。日野:さすがですね。実は弊社の今月発表するキャッチフレーズは「ストアサポートコーディネート」なんですよ。
車の重要な消耗品としてバッテリーがあるのですが、そのパッケージが(型式番号だけなど)とてもハードで弊社のサービスピットの人間でなければ分からないようなデザインだったんです。そこで女性やメカに詳しくない男性でも分かるようなパッケージを作りました。「性能と価格のバランスのとれたクルマの電池」、ですが、どうでしょう?
日野:わかりやすい!
新井さん:ハイブリットカーのバッテリーはメインとサブの2つあって、サブが5年ほどで消耗してしまうと、メインが動かなくなるんです。そんなこと知らないですよね?
日野:知らないです。
新井さん:これが”知る人ぞ知る”という、こういうのを調べて買いに来る人の店だったわけです。そこで女性視点というか、メカに詳しくない男性にもわかるような広告を作りました。女性や車に詳しくない人にむけての伝え方を考えていくことで、従来商品の新しい可能性を見つけることができたわけです。製品開発ではない、サービス開発とでも言うべきでしょうか。物事に囚われないニュートラルな目で、日野さんにもジェームスの店舗内を見ていただいて、女性に難解な商品を見つけていただきたいなと思ってます。
日野:なるほど面白いですね。まるで宝探しですね。
新井さん:「家庭でも使える」みたいなものもいいですね。カー用品には、フロントガラスの雨粒を弾く、撥水剤の商品があるのですが、お風呂場の鏡にも使えるんじゃないか、そんな発想です。こういったことはお客様のほうが進んでいて、既に実践されている方もあるかもしれない。製品開発としてサプライヤーはこんな発想はなかなかできないけれど、店舗ならいろんな使い方提案をしてもいいと思う、セールストークとしてね。そうすることで新たな需要が生み出せるかもしれない。こういったことも、日野さんにお手伝いいただきながら、ジェームスという店の可能性をどんどん広げていく。これが次のビジョンであり、すぐにでも叶えたい夢ですね。
日野:弊社の得意分野です。ぜひお手伝いさせていただきたいと思います。今後もジェームスからも目が離せませんね。本日はどうもありがとうございました。
■対談を終えて
新井社長とは、トヨタ自動車時代から長いお付き合いです。新井社長がこだわられてきたのは「女性客マーケティング」ではなく、「女性視点マーケティング®」。女性視点とは、女性客だけのためのマーケティングではなく、車が得意ではない女性ドライバーの視点から見ると、わかりにいく商品、サービス、説明、POPなどがあるのではないか、それを変えていくと、車が苦手な男性、若者、シニアの人たちにも通じるようにでき、広く大勢の人たちに車に親しんでもらえる店になるのではないか、という考えから展開されています。
新井社長の行動力はいつも驚かされます。ジェームスが各地でどんどん誰もが入りやすい雰囲気、店になっています。わたしも長くドライバーですが、ジェームスなら立ち寄れる、と感じる店が増えてきました。
女性視点だけではなく、誰もが立ち寄りやすく、わくわくする楽しいカー用品の店が全国に増えることを楽しみにしています。これからも長いお付き合いをよろしくお願いします。
その他のトップインタビュー
女性トレンド総合研究所の共創プロジェクトに参画いただいた企業のトップに、
その取り組みと成果について聞きました。
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