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コロナ禍で変わる地域の商品づくりと販売方法 食関連のキーは「手を掛ける余地」と「ストック」

コロナ禍で変わる地域の商品づくりと販売方法 食関連のキーは「手を掛ける余地」と「ストック」

コロナ禍で変わる地域の商品づくりと販売方法 食関連のキーは「手を掛ける余地」と「ストック」

2020年11月10日

女性消費者行動

女性トレンド総研

新型コロナと、それによる長い自粛期間が変えたものは多い。全国の地域産品を各地の企業に卸し、直営店で販売、行政や団体へのコンサルティングも行う有限会社「良品工房」代表の白田典子さんは、アフターコロナの食に関するキーワードとして「手を掛ける余地」と「ストック」を挙げる。白田さんが注目する動きについて伺った。



有限会社「良品工房」 代表

白田典子

栃木県生まれ。青山学院短大英文学科卒業後に株式会社 電通入社。結婚を機に退職し、主婦時代に機会を得て、1994年に「良品工房」設立。2001年、「私たちのほしいものが買えるようになるといいね」の想いから「いいものプロジェクト」をスタートさせ、地域産品の商品評価、モニター調査などを事業化。2010年、産地と消費者をつなぐ「場」として東京駅に直営店「二ッコリーナ」をオープン。石川県ブランド食材プロデューサー、総務省地域活性化伝道師、茨城県おみやげコンクール審査委員長といった立場で生産者と向き合う多忙な日々を送っている。


良品工房

良品工房は1994年の創業以来、人と産地が元気になる地域商品の流通を提案しています。東京駅で直営店・ニッコリーナを運営しているほか、全国各地で地域商品づくりや売り場づくりのお手伝いをしています。

https://www.iimono-pro.com/

 

目次

1.東京で「売れる」天然鮎に衝撃 地域資源を消費者に繋ぐ中継役へ

2.「店で買うはず」の意識を改革 コロナ禍でネット通販に活路

3.「楽しむ余地」を残した商品づくり 料理の匂いで幸せな気分に

4.スーパーが情報発信基地に?「ストックできること」にも注目

5.インタビューを終えて…

 


■東京で「売れる」天然鮎に衝撃 地域資源を消費者に繋ぐ中継役へ


日本列島の北から南まで歩いて巡りあった地域食品を小売店などに納めていますが、仕事を始めた約30年前は「地域資源」といった言葉は聞いたことがありませんでした。卸業に取り組むきっかけは、天然の鮎です。天然鮎が豊富な栃木県の那珂川沿線の町で生まれ、もらうのが当たり前だった天然鮎は、東京では四万十産が1匹1600円で売られていて衝撃を受けました。「500円でもいいから売りたい」と思いましたが、産直も直販もまだなく、お客様を開拓することの大変さを知りました。


そこで、消費地・東京にいる私が中継役となれば地方の人達は地域で獲れるものを売れるし、消費者も製造元から直接買えていいし、自分も楽しいと思ったのです。


その動きを紹介してくれた小さな記事を読んだ島根県の方から電話が来て、商品開発に関わるようになりました。島根では醤油屋さん同士で情報が流れたり、醤油屋さんが取引するメーカーさんから電話をいただくなどして、県内で横展開ができました。また、鮎で繋がった販路に地域商品を紹介したり、島根の事例を見た岩手県庁から話が来たりして、自然発生的に卸問屋になりました。「1年で360日いない」と家族に言われるくらい各地に出張し、2007年頃には47都道府県の商品を扱うようになりました。いまは全国の300社以上と取り引きし、卸先も100店舗ほど。倉庫は持たず、製造元に当社が受発注し、お客様に直送しています。




■「店で買うはず」の意識を改革 コロナ禍でネット通販に活路


地域食品のセレクトショップ「ニッコリーナ」を2010年から東京駅の1階にあるエキュートで展開しています。東京駅で店舗を出さないかとお声掛けを受けた時、地方の人の東京販路への目標も感じていたので「東京の中の東京」への出店を決意。15坪ほどの店舗には常温と冷蔵の加工食品など500〜600アイテムが並び、年中無休、1日14時間営業しています。商品開発のお手伝いをする際、この店舗でテストマーケティングも行います。


食品について私は「お客様は店で買うに決まっている、五感で選ぶはず」とずっと思っていましたが、コロナ禍を機に「通販をやらなければ!」と考え方が変わりました。店舗は今年4月上旬から2カ月休業し、再開後の今でも売上は相当落ち込んでいます。必死で準備を進め、8月11日にwebショップを始めました。コロナ前から通販事業を準備していた企業は今、売れています。自粛中、私自身も、気になった商品や聞いたことがある商品を取り寄せて比較したり、出張がなくなってから相当数を取り寄せしました。豪雨被害があった九州は知り合いも多いので、クラウドファンディングやギフト商品を買うなどして協力したことも。人の行き来は止まったけれど、人を思う心はものすごく活発に動いたこの時期。今後も通販は需要が増えるでしょう。



北海道の甘納豆、鹿児島の芋ようかんなど、各地の秋の味覚が並ぶ。詰め合わせも承っている




■「楽しむ余地」を残した商品づくり 料理の匂いで幸せな気分に


自粛期間に料理をする人が増えたし、これからは「完成していないもの」がいいと思っています。数年前に商品開発に携わった時、甘味も脂も加えないピーナッツだけのペーストを作りました。すると、出汁醤油を足せば野菜のあえ物が作れるし、蜂蜜や黒糖など好きな糖分を好きな分量入れられると好評でした。全国的には6次化が盛んですが、買った人が最後に手をかける余地を残した「4.5次化」くらいで止めておいた商品、最後に少し自分の手をかけることで完成させられる「楽しみの余地」を残した商品が求められると思います。一次加工で止めるとか、味を付けていない、あるいは下ごしらえ済みの業務用を家庭用サイズで売るなど、引き算の付加価値といった考え方です。


そこで大切なのは「匂い」。台所に料理の匂いが満ちたり、仕事の帰り道でよそのお宅から煮物の匂いがすると幸せな気持ちになりますよね。だから、最後に煮たり焼いたり、味を加減する部分を残してほしい。


もちろん、商品化の過程では素材、味や質にこだわるのは当たり前。工程が減ると製造元にとっては効率的で、数をまとめて売ることもできますし、こうした使う人の気持ちを考えた商品や素材力が活かせる商品は、地域商品に向いていると思います。




■スーパーが情報発信基地に?「ストックできること」にも注目

企業経営については複数の事業を同時並行で進めてリスクヘッジしたり、事業バランスを考えることがすごく大切だと痛感しました。店舗の売上が激減した今回、卸業があることで救われたし、卸先にスーパーがあったことで「イエナカ需要」にも救われました。



店頭の写真

そのスーパーにも変化の波は来るでしょう。お客様がいつも使う商品をネットでまとめ買いしたり、週3回の買い物が1回になっても、お店はなくならないとは思います。ただ、大量陳列の見た目で買うのではなく、人が触れていない商品を出してもらった方が衛生的に好まれ、買われるかもしれません。また、ショールーム的な商品紹介や、キッチンスタジオのようになって「少し手を掛ける新商品」の使い方を覚えてもらうなど、情報発信基地になる可能性もあるでしょう。


「ストック」にも注目が高まるのでは。私は3年前に家を建て替えた時、3畳ほどのパントリーを作り、大型冷蔵庫を二つ買いましたが、コロナ禍ではそのストックスペースが大活躍でした。近年は自然災害も多く、防災の観点でも食品をストックする傾向が高まると思うので、住宅メーカーや家電品には冷蔵やストックに関する機能が求められるかもしれません。日常で食べても美味しい非常食がもっと出てきて、フリーズドライはもっと流行るでしょう。乾物人気も復活するのでは。


私たちの「二ッコリーナ」という店名には、作った人、買った人に幸せになって欲しいという思いを込めています。食にまつわる笑顔が増えるような新規事業を展開します。




■インタビューを終えて…




日本全国各地の自治体の「食」にかかわる情報を最も持っている人は白田さんではないかと思っている。日本中を飛び回っていた彼女もこの半年は、都内にいることを余儀なくされた。だからこそこの体験から、発見も得たようだ。彼女のさらなる活動が楽しみだ。



 

日野佳恵子 株式会社HERSTORY(ハー・ストーリィ)代表取締役  1990年創業 タウン誌の編集長、広告代理店のプランナーを経て、結婚、出産を機に専業主婦を経験。女性のクチコミ力、井戸端好きに強い衝撃を覚え、広告よりクチコミのパワーが購買に影響を及ぼしていることを確認。一貫して男女の購買行動の違いに着目したマーケティングを実践し、女性客マーケティングという独自分野を確立。多数のコミュニティや実店舗を自ら運営。10万人の生声、3万件に及ぶアンケート分析、5万人以上の男女購買行動を研究。


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