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スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」機能的で格好良く、着心地抜群。コロナ禍でも売り上げ好調
スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」機能的で格好良く、着心地抜群。コロナ禍でも売り上げ好調
2020年12月10日
女性視点マーケティング
女性トレンド総研
スーツなのに、ハードな作業もできて汚れも平気な「ワークウェアスーツ(WWS)」の人気が止まらない。2018年3月の発売から2年で年商3億円を達成、コロナ禍でもECが個人需要などで好調で、2020年9月には東京駅の八重洲地下街に初の実店舗をオープンした。企画・販売を手掛ける株式会社オアシススタイルウェア代表取締役の中村有沙さんに快進撃の裏側と展望を伺った。
株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙 神奈川県生まれ。2011年、東京大学経済学部卒業後、株式会社オアシスソリューションに営業職として新卒で入社。入社2年目で新支店の立ち上げ担当に抜擢、翌年には全国で年間営業成績No.1となる。人事担当時に作業着のリニューアルプロジェクトを発足し、「スーツに見える作業着」の開発を担当。2017年に株式会社オアシススタイルウェアを設立し、代表取締役に就任。2020年現在、ユナイテッドアローズをはじめとしたセレクトショップや三越伊勢丹などの百貨店での取り扱い、ANAとのコラボなど注目を集めている。
目次
1.水道工事会社が新卒採用に苦戦格好良い「スーツ」を作業着に
2.理想の生地をメーカーと独自開発新卒の就職希望者は一気に3倍
3.「新しいこと」へのチャレンジ応援する社風、新規事業を展開
4.実店舗を国内、そして海外へオンにもオフにも活躍する服を
5.インタビューを終えて…
■水道工事会社が新卒採用に苦戦
格好良い「スーツ」を作業着に
WWSが誕生したのは、グループ会社である株式会社オアシスソリューションの人事部にいた時、新卒採用に苦戦したことがきっかけです。水道工事・メンテナンスの仕事を若い人に志望してもらうには、仕事服が格好良いことも大切ではないかと考えました。私自身、入社2年目の営業職だった時、仕事に誇りを持っていたにも関わらず、作業着で偶然友達に会って「恥ずかしい」と思った経験がありました。当初は作業着のリニューアルを考えましたが、働く意欲が向上し、それまでの作業着とは全然違って格好良く、そしてお客様に清潔感と信頼を感じていただけるものをと考え、スーツの形にすることを決めました。
■理想の生地をメーカーと独自開発
新卒の就職希望者は一気に3倍
「スーツであり、作業着」という条件を満たす理想的な生地を探しましたが、どこにもありませんでした。無ければ作る。その思いで、国内の生地メーカーと共同で試作を何度も繰り返し、はっ水・速乾・ストレッチ性が高く、毎日洗える耐久性がある独自の新素材を開発しました。2年がかりで完成したスーツは色がネイビー、ジャケットはシングルの2つボタンで、複数あるポケットは入れたものが落ちないようファスナー付き。裏地は通気性を確保するためメッシュ構造です。デザインなど詳細については、メンズ、レディス、それぞれ社内の一人にペルソナとなってもらい、「これが使いやすい」といった一存に任せました。商品自体が非常にベーシックなので、使い勝手などいろいろな人の声を聞くとブレてしまうからです。
当初はメンズのみでジャケットとパンツ、ポロシャツなど5つほどのアイテムを製作しました。現場の社員に着てもらうと最初は「恥ずかしい」「これで作業ができるわけはない」など反対の声もありました。でも次第に通勤電車に抵抗がなくなったり、家族やお客様から「格好良いね」といった声が聞かれるようになると、社内にもポジティブな空気が広がり、受け入れてもらえました。何より、新卒の就職希望者が一気に3倍になったことはうれしいことでした。
■「新しいこと」へのチャレンジ 応援する社風、新規事業を展開
取引先の大手不動産会社から高級マンションの管理人の制服に採用したいというお話をいただいたことで事業化を検討。2017年12月に新しく会社を立ち上げ、スーツ発案者である私が社長に就きました。価格はジャケットが1万6,000円から(税別、以下同)、パンツが1万2,000円と作業着としては高いので当初は苦戦しました。あるネット記事をきっかけに好意的な反応が広がり、事業化から2年半で導入企業は550社を突破し、現在は結婚式場やレストラン、理美容店など接客を伴うサービス業などの採用もあります。
(当時)入社6年目の私に社長となることを奨めてくれたのは、親会社の社長である関谷有三です。大学4年の2010年、新規事業をゼロから作るような仕事を探してベンチャー企業を中心に就活していた時、関谷に出会いました。説明会では水道工事の話はほとんでせず、新しい事業をどんどん作っていきたいとか、未来の話ばかり。それがすごく面白く、「世界一やりたいことができる会社」というビジョンにも惹かれて「この人と一緒に働いてみたい」と思い、入社を決めました。営業を希望したのは、内気な性格を直し、人との会話が得意になりたかったから。3年目に全国で年間営業成績トップとなり、5年目にはよりよい組織づくりを目指して関谷に直談判して人事部を設立、自分が担当になりました。
社長になった時、関谷が「失敗してもいい。大船に乗ったつもりでやれ」と強力にサポートしてくれたことはありがたかったです。グループ会社の台湾料理のカフェも、新卒で入った女性社員が立ち上げに関わるなど、ゼロから作ることに挑戦したい人が集まり、新規事業を展開しています。
■実店舗を国内、そして海外へ オンにもオフにも活躍する服を
販売開始から3年目となるの今年はコロナが幸いにも追い風になりました。リモートワークで着心地が良く、なおかつキッチリ見せるというニーズや、丸洗いできることが感染症対策に良いということで個人のお客様が増え、ECの売上が5月は前年同月比1187%、3月〜8月の上半期では400%達成になりました。八重洲に常設店舗を出したのは、「実際に生地を手に取り、質感や色を見比べたい」という要望が想像以上に多かったからです。実物を見ていただくとともに、「水道会社がこんなことを考えてスーツを作った」というストーリーやグループ会社全体の社風をお伝えし、共感してくださった方に買っていただければと思っています。11月には博多店を、さらに2023年までに首都圏や政令都市などに15店を出店する計画です。今期はいろいろな場所に期間限定のポップアップストアを出して市場調査を実施し、今後は海外にも展開します。
一般のアパレルはシーズンに合わせて商品を作りますが、私たちはベーシックなものを小さいアップグレードをかけながら何年も売ろうと考えています。気に入って買った服を繰り返し着て、ほつれなどで新しいものが欲しくなった時にデザインが変わっていると不便だなと思いますよね。いい感じに素人目線をなくさずにと、考えています。ニーズに応えて、今年からワンピースやレギンスなどのレディースを強化販売しており、私も出産・育児の経験から、機能性が高い服はマタニティにも使えると実感しています。リモートワークが増え、私服と仕事服、オンとオフを分けない人が増える中、もう少し広い働くシーンやライフスタイルでも着心地良くてきちんと見える、広い意味でのワークウェアにいずれ広げていきたいと考えています。
■インタビューを終えて…
おめにかかってとても小柄で失礼ながら可愛らしい社長でびっくりした。事前情報では、東大卒で、新卒で水道会社に入って営業トップ。その後は新規事業を手掛け、現在の会社の社長という経歴に怖そうな女性と勝手にイメージしていた。当日も育休中で取材対応のために出勤といわれた。そんな自然体の素人感覚だからこそ今までにない商品を生み出せたのかもしれない。
日野佳恵子 株式会社HERSTORY(ハー・ストーリィ)代表取締役 1990年創業 タウン誌の編集長、広告代理店のプランナーを経て、結婚、出産を機に専業主婦を経験。女性のクチコミ力、井戸端好きに強い衝撃を覚え、広告よりクチコミのパワーが購買に影響を及ぼしていることを確認。一貫して男女の購買行動の違いに着目したマーケティングを実践し、女性客マーケティングという独自分野を確立。多数のコミュニティや実店舗を自ら運営。10万人の生声、3万件に及ぶアンケート分析、5万人以上の男女購買行動を研究。