【第1回】売上が伸びない会社ほど、お客様に聞いていない。
「顧客第一」と言いながら、実は誰も本音を聞いていない。

売上は、生活者の声の中にある。 ~生活者の声を、売れる商品・サービスへ転換する実践論~
先日、ある経営者の方とお話をしていたとき、こんな言葉を聞きました。
「最近、広告費を増やしているのですが、思うように売上が伸びないんです。」
その会社は、決して努力をしていないわけではありません。
ホームページを見直し、SNSを更新し、営業資料も新しくし、広告も出している。
それでも、期待した結果には届かない。
私は、その方に一つだけ質問しました。
「最近、お客様とゆっくり話をされましたか。」
すると、少し間を置いて、こんな答えが返ってきました。
「アンケートは取っています。」
「営業担当から報告も受けています。」
私はさらに聞きました。
「では、お客様がなぜ選んだのか、なぜ迷ったのか、なぜ離れたのかを、一時間かけて聞いたことはありますか。」
その場は静かになりました。
「顧客第一」と言いながら、顧客に聞いていない
多くの企業は、「顧客第一」を掲げています。
しかし実際には、お客様の本音を直接聞く機会は、驚くほど少ないのです。
売上データは見ています。
アクセス解析もしています。
アンケートも実施しています。
それでも、「なぜその商品を選んだのか」「なぜ選ばなかったのか」という背景まで聞いている企業は、多くありません。
数字は結果を教えてくれます。
しかし、結果が生まれた理由までは教えてくれません。
その理由を知っているのは、生活者だけです。
売上の答えは、会議室より生活者の中にある
私は35年以上、生活者へのインタビューを続けてきました。
何万人もの女性たちと話をし、暮らしを聞き、買い物の理由を聞いてきました。
そこで何度も感じたことがあります。
売上を伸ばすヒントは、会議室の中ではなく、生活者の言葉の中にあるということです。
例えば、「この商品が好きです。」という答えだけでは、本当の理由は見えてきません。
「最初に買おうと思ったきっかけは何でしたか。」
「使い続けようと思った理由は何ですか。」
「もし友人に勧めるなら、何と言いますか。」
そんな問いを重ねていくと、最初の答えとは違う、本当の理由が少しずつ見えてきます。
生活者自身も気づいていなかった気持ちが、言葉になる瞬間があります。
私たちは、その瞬間を何度も見てきました。
「聞くこと」と「商品にすること」は違う
ここで一つ誤解があります。
「お客様に聞けばいい。」言葉にすると、とても簡単です。
しかし実際には、それほど簡単ではありません。
誰に聞くのか。
何を聞くのか。
どんな順番で聞くのか。
どこまで掘り下げるのか。
そして、その言葉をどう商品やサービスへ結び付けるのか。
ここには経験と技術が必要です。
例えば、お客様が
「最近、疲れるんですよね。」と言ったとします。
その言葉だけを受け取れば、「疲労回復」や「時短」という商品開発になるかもしれません。
しかし、背景を聞き続けると、
「朝、鏡を見たときに元気そうな自分でいたい。」
「家族に『疲れているね』と言われたくない。」
そんな本当の願いが見えてくることがあります。
すると、商品の考え方も、伝え方も変わります。
生活者は商品のことを話しているのではありません。
暮らしのことを話しているのです。
HERSTORYが続けてきた仕事
HERSTORYは36年間、生活者の声を聞き続けてきました。
しかし、私たちの仕事は、単にインタビューをすることではありません。
生活者の言葉を読み解き、その背景にある暮らしを理解し、企業のビジネスへ転換することです。
どんな人に話を聞くべきなのか。
何を質問すれば本音が見えてくるのか。
その言葉は、どんな市場の変化を示しているのか。
そして、商品、サービス、コミュニケーションへどうつなげるのか。
私たちは、その一連のプロセスを「生活者理解業務」と考えています。
だからこそ、生活者の声は「調査結果」で終わりません。
企業が次の一歩を踏み出すための、ビジネスの材料になります。
おわりに
企業は、売上が伸びなくなると、広告や販促、価格を見直します。
もちろん、それも大切です。
しかし、その前に一度だけ立ち止まって考えていただきたいことがあります。
最後に、お客様の声をじっくり聞いたのは、いつでしょうか。
答えは、会議室の中ではなく、生活者の暮らしの中にあるかもしれません。
私たちは、これからの連載を通して、「生活者の声をビジネスへ転換する」とはどういうことなのか、その考え方と実践をお伝えしていきます。
HERSTORY NOTE
売上を伸ばすヒントは、会議室より生活者の声の中にある。
アンケートだけでは、本当の購買理由は見えてこない。
「聞くこと」と「ビジネスへ転換すること」は、まったく違う仕事である。
生活者は商品のことではなく、暮らしのことを話している。
HERSTORYは、生活者の声を読み解き、商品・サービス・コミュニケーションへ転換する「生活者理解業務」を36年間続けてきた。
筆者プロフィール

日野佳恵子
女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役社長一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事
島根出身。1990年創業。女性の購買行動とライフコースの関連がマーケティングに影響を及ぼすことに着眼し、女性インサイト理論を独自開発。学習院大学、成城大学、大阪公立大学の専門教授らと「男女の消費行動研究」を発表している。クライアントは生活消費財を中心にメーカーから小売まで幅広く、「女性顧客起点の専門家」として多数の企業のアドバイザーを行う。
<代表的な受賞ほか>
経済紙Forbes Japan「日本の社長100人」、日経WEBCOMPANYが選ぶ「21世紀 時代のキーパーソン51人」、日経ウーマン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003リーダー部門第9位、2013世界女性リーダースティビーアワード銀賞、日本の残したい企業100社、2021Forbes Woman Award300人未満全国第2位など個人、企業活動と両面で広く評価されている。
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