女性視点でWeb をリニューアル、反響が大幅に向上。
一般社団法人グラミン日本
理事長 百野 公裕 氏
女性支援のマイクロファイナンス機関「グラミン日本」。ロゴ変更、Webリニューアルに合わせ女性視点での見直しを依頼。反響が大幅に向上。
グラミン日本様は、2006年にノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の日本版。困窮者への無担保のマイクロファイナンス(小口融資)、就業支援などを行っています。2022年2月にリブランディングを実施し、ロゴマークを刷新。4月に公式サイトをリニューアルしました。ハー・ストーリィは、サイトのリニューアルにおいて女性視点から助言させていただきました。リニューアルサイトのオープンから約3カ月後の7月、リブランディングに至る経緯やサイト制作の苦労話などについて、百野公裕代表、事務局長の中川理恵さん、広報チームの奈良千尋さんにお話を伺いました。
グラミン日本 理事長
百野 公裕 氏
<プロフィール>
愛知県生まれ。米国公認会計士。
外資系コンサルティングファーム PwC、プロティビティ(旧アーサーアンダーセン)でマネージング・ディレクターとして勤務。
2017年8月よりグラミン日本準備機構の設立メンバー(プロボノ)として、グラミン日本の設立準備に参画。
2018年9月に前職を退職し、グラミン日本理事/COOに就任。
2019年10月より現職。
共創プロジェクトの目的
・グラミン日本の独自性の明確化を模索。世界的な知名度のある「グラミン銀行」(バングラディシュでムハマド・ユヌス博士によって創設されたマイクロファイナンスモデルは2006年にノーベル平和賞を受賞)を祖とするグラミン日本らしさについて迷っていた。
・関わるメンバーが多いため、ブランディング、CIを整理する上での方向性、意識統一に向けた整理に課題があった。
共創プロジェクトの内容
・「誰に向けて」「何を」「どうしたいのか」を整理。特にシングルマザーに向けての発信を中核に女性視点での発信についてチーム内での学習会を開催し施策のポイントを意識統一。
・ロゴマークの変更、Webデザインは、対象となる女性たちが共感し、自分たちの居場所であると感じることを意識。当事者の写真、等身大表現をアドバイスしプロジェクトを伴走。
導入成果
・リニューアルした途端に実績、資料、数値を聞かれることがなくなった。サイトで支援を受ける人やボランティアスタッフの写真を見て、活動内容が伝わるようになったことは大きい。
・問い合わせやボランティア志願の方に「実際にどんな人を支援しているかイメージが沸いた」とリクルーティングにも効果を実感している。
INTERVIEW
■リブランディングで認知度アップを狙う
日野:まず、グラミン日本の立ち上げの経緯と事業内容について、ご紹介いただけますか。
百野さん:私たちは、1983年にバングラデシュでムハマド・ユヌス氏によって創設され、世界40ヵ国以上で活動するグラミン銀行グループの日本法人です。2018年の設立以来、マイクロファイナンスを活用し、生活困窮者に対する経済的な自立支援を行っています。具体的には、グラミン銀行の貸付モデルを踏襲し、5人一組の互助グループに融資しています。
通常お金を借りるには前年度の収入額などが必要ですが、私たちは、信用情報を照会しなくてもお金を貸付けできる免許を取得しています。預金取扱金融機関ではないので、「グラミン銀行日本」ではなく「グラミン日本」なんです。活動資金は、個人や法人、政府などからの寄付や出資で賄っています。他にも内閣府の休眠預金を活用するなど、さまざまな仕組みを利用して資金調達しています。
グラミン日本を立ち上げた2018年は、シングルマザーの相対的貧困と子どもへの貧困の連鎖がメディアでクローズアップされ始めた頃でした。そんな状況の中、グラミン銀行の創業者で日本法人の名誉会長でもあるユヌスさんと話し合い、
グラミンは日本でも貧困問題に注力すべきだという結論に至りました。
日野:設立が2018年9月。リブランディングを決断されたのが2021年で、初めて私たちがお会いした6月には、すでにロゴのリニューアルを検討されていましたよね。そこに至るおよそ3年間の歩み、リニューアルの理由と経緯をお話しいただけますか。
百野さん:日本には、年間所得122万円以下で生活している、いわゆる相対的貧困とされる人がおよそ2千万人います。6人に1人の割合です。300万以上の所得を経済的自立と定義付け、そこを目指して支援を行っています。ワーキングプア、学生、高齢者などいろんな人がいて、最初はそのすべてを対象に支援活動を行っていました。
でもユヌスさんから、特に女性、中でも子どもを持つ女性の支援に注力してほしいと言われたんです。もともとユヌスさんがバングラデシュで始めた支援の対象は99%が女性で、グラミングループ全体も女性支援に力を入れています。そこで、グラミン日本も支援対象を女性に振り切ることにしたんです。
それに合わせて、公式サイトの内容も変える必要がありました。進むべき方向性が定まったので、このタイミングで全面的なリブランディングを行い、グラミン日本の認知度を上げようと考えました。
日野:どんなサイトにリニューアルされたいとお考えでしたか。
百野さん:私たちの役目は、一歩踏み出そうとする人に手を差し伸べること、扉を開けたいと願う人の背中を押すことなので、彼女たちが「応援されている」と感じられるようなイメージにしたいと思いました。
具体的には、まず「貧困」という言葉を多用せずに私たちの考えや活動を伝えたいと思いました。この単語から思い浮かべるイメージは人によってバラバラですし、そのために貧困の現状が認識されづらいと感じていたので。
次に、マイクロファイナンスだけではなく、就労支援で女性の自立を目指していることも打ち出したいと考えました。コロナ禍では食糧や生理用品などの物資支援が主流でしたが、アフターコロナでは経済的な自立が重要です。
■女性に特化した専門性とブランディング力に期待
日野:なぜハー・ストーリィにご依頼いただいたのでしょうか。
百野さん:女性支援に振り切ることから、女性の視点が重要だと考えました。そして、ちょうどブランドリニューアルを決めたタイミングで御社との出合いがあったんです。リニューアル前のサイトをひとめ見た日野さんが「ハートマークの手、男性の手に見えますね」と指摘されたとき、これは自分には絶対気づけないと思いましたね。
女性目線でのマーケティングを専門的にやっている会社を他に知りませんでしたし、女性の自立を支援されている会社です。女性を支援したい企業や団体の目に留まる機会が増え、より共感いただけるのではという期待もありました。
また、「グラミングループは他の団体とは格が違うのだから、ブランドをきちんと表現すべきだ」とおっしゃっていただいたことも大きかったです。
■キービジュアルはリアリティを重視
百野さん:ブランドリニューアルの方向性を内部で共有し、意思統一することが非常に難しいと感じていました。そこで、まずは日野さんにマーケティングの打ち合わせに入っていただき、直接話していただく場を5回ほど設けました。その後で全体会議にも参加していただきました。最初の何回かは内容がブレてしまい、そのたびにビシッと軌道修正していただきました(笑)。みんなで一緒に話を聞くと違いますね。だんだん目線がそろってくるのが分かりました。
奈良さん:「支援の受け手側と提供側、双方の顔が見えるようにするといい」というアドバイスを受け、シングルマザーの方々に写真の掲載許可をいただいたり、ボランティアを集めて撮影したりしたことですね。グラミン日本の広報チームとしては初めての試みで手探りでしたが、おかげで顔の見えるサイトに近づいたかな、と思います。キービジュアルの重要性を学びました。
日野:本当に素敵な写真をたくさん集められましたね。ご苦労されたことと思いますが、人はリアルしか信じません。特にソーシャルビジネスではリアリティが大事です。生き生きした表情の写真とレンポジでは、与える印象が全然違います。今後も写真のストックは増やされるといいですよ。
■メッセージは、言い切った方が刺さる
日野:私たちがアドバイスした中で、特に参考になったことがあれば教えてください。
奈良さん:メッセージをどう打ち出すか話し合っているとき、日野さんに「なぜ女性を支援すると言い切らないんですか」と聞かれ、答えることができませんでした。2018年から3年間、貧困の解消をテーマに活動をしてきて、女性に限らずいろんな人を支援してきました。そういった過去に未練というか配慮のようなものがあったんですね。「女性を支援すると決めたのなら、言い切った方が刺さる」というアドバイスをいただいていなければ、今のサイトはなかったと思います。
最終的にブランドメッセージには「女性を中心として」という文言を入れ、キービジュアルも女性に絞り、ロゴやカラーも女性を意識したものにしました。現在は法人向けサイトやシングルマザー向けのサイトを制作中で、迷ったときはハー・ストーリィ様からいただいたコメントを見返しています。
百野さん:多様性の重要性が叫ばれている中で、女性だけに支援するのはどうかという思いもありました。でも、実際に困窮している人の多くは女性なんですよね。ブランドリニューアルを進めているさなか、ジェンダーを無視した政治家の失言がありました。直後に経済同友会の講演があり、企業もジェンダーを無視した言動はダメだという共通認識ができました。私たちにとっては世の中の流れが追い風になった形で、振り切って良かったと思いました。
中川さん:私は、女性は環境によって生活や考え方が全く違うという御社の分析レポート、29種類のペルソナを見て「ああ、そうだ。こういうことだったんだ」と全員が腑に落ちた瞬間が印象に残っています。
■活動内容が理解され、実績を求められなくなった
日野:リニューアルサイトの評判、反響はいかがですか?
百野さん:以前は必ず実績を聞かれましたが、リニューアルした途端に聞かれなくなりました。私にとってはこれが一番大きな変化です。たぶんサイトで支援を受ける人やボランティアスタッフの写真を見て、活動内容を理解できたからでしょう。資料で数字を見せる必要がなくなりました。
奈良さん:グラミングループの一員として、ロゴのモチーフはグラミン銀行と同じ「家」にしました。「家」は安心できる場所の象徴でもあります。新しいロゴは明るくシンプルで私自身も気に入っていますし、社内でも好評です。
中川さん:「一歩前へ」という前向きなメッセージが伝わるロゴだと思います。私たちが実現したいと思っている、支援者が未来に向かって歩き出す姿がイメージできます。何より、私たちの理念や活動内容を説明するとき、このロゴを見せながらだと話しやすいし、相手に伝わりやすいんです。
■活動を全国に広げ、地方の女性も支援していく
日野:どのような活動に力を入れていきたいかなど、今後の展望をお聞かせください。
百野さん:自立するには働いてお金を稼ぐ必要がありますが、スモールビジネスの起業は難しいため、安定した雇用も大事です。そこでマイクロファイナンスだけではなく、昨年から就労支援も始めました。企業に協力いただき、デジタル関連の知識や技術を身につけることで、DX人材としての就労支援などを進めているんです。
リモートワークが広まったことで、地方でもスキルがあればサポーター企業に雇用してもらえます。先日は、株式会社MAIAとSAPジャパン株式会社と進めている、女性デジタル人材の育成や就労支援を行う事業「でじたる女子活躍推進コンソーシアム」で、愛媛県と連携協定を結びました。すでに仙台支部はありますが、全国にグラミン日本の支部を作ろうと考えています。企業だけでなく政府にも協力を仰ぎ、官民連携を図りながら、マイクロファイナンスと就業支援の両方を全国展開していくつもりです。
■女性のマーケットの大きさを、広く伝えてほしい
日野:ハー・ストーリィに対して、今後のご期待やご要望がありましたらお願いいたします。
百野さん:大企業ほど女性を戦力とみなしておらず、女性のマーケットを小さいと思っています。でも実際に人口の半分は女性ですし、女性の方が長生きですし、女性が就きやすい職業も増えているし、働き方も多様化しています。女性のマーケットは非常に大きいものだということを、もっと広く伝えていただきたいです。
日野:2018年の立ち上げ当時にはなかったコロナに加えて、今は円安やエネルギー問題もあり、多くの人が経済的に苦しい状況にあります。百野さんからエールをお願いいたします。
百野さん:日本人はよく自分を他人と比べますが、それが苦しみを生む場合も多いように思います。他人との比較はやめ、どれだけ成長したのか過去の自分と比べてみてください。
日野:官民連携を図りながら、全国展開を目指すグラミン日本。今後、より多くの人に影響を及ぼしていくのではないでしょうか。リブランディング、活動の窓口となるサイト制作に関わることができ、うれしく思います。またご一緒できる日を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
その他のトップインタビュー
女性トレンド総合研究所の共創プロジェクトに参画いただいた企業のトップに、
その取り組みと成果について聞きました。
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