【第3回】アンケートを取っても売れない理由
数字はある。でも、「だから何を作るのか」が分からない。

売上は、生活者の声の中にある。 ~生活者の声を、売れる商品・サービスへ転換する実践論~
ある企業の会議で、調査結果を見せていただいたことがあります。
回答者は1,000人
認知率
購入経験率
満足度
価格評価
継続意向
きれいなグラフに整理され、年代別、地域別、性別にも分析されていました。
資料としては、とてもよくできていました。
しかし、会議の最後に担当者の方がこう言いました。
「それで、私たちは何を作ればいいのでしょうか。」
私は、この言葉に、企業が抱える大きな課題が表れていると思いました。
数字はあります。データもあります。しかし、その先へ進めないのです。
アンケートは「現状」を教えてくれる
アンケートは、とても重要な調査です。
どのくらいの人が知っているのか。
どのくらいの人が買っているのか。
何に満足しているのか。
どこに不満があるのか。
全体の傾向を把握するうえで、数字は欠かせません。
例えば、
「購入者の70%が価格に満足している。」
「30代の利用率が低い。」
「継続意向は50代で高い。」
こうした結果が分かれば、企業は市場の現在地を知ることができます。
しかし、数字が教えてくれるのは、主に何が起きているかです。
なぜ起きているのか。
その人の暮らしの中で、何が引っかかっているのか。
どう変われば選びたくなるのか。
そこまでは、数字だけでは見えてきません。
「満足している」は、何に満足しているのか
例えば、アンケートで「この商品に満足していますか。」と聞いたとします。
すると、「とても満足」「やや満足」「あまり満足していない」という結果が出ます。
しかし、同じ「満足」でも、理由は人によって違います。
価格が安いから満足している人。
壊れにくいから満足している人。
家族が喜んだから満足している人。
買い物の失敗をしなかったことに満足している人。
この違いが分からなければ、次の商品づくりにはつながりません。
満足度が高いことは分かる。
しかし、
何を残すべきか。
何をさらに強くすべきか。
誰に、どんな価値として伝えるべきか。
そこが分からないのです。
数字は平均を示す。しかし、商品は平均から生まれない
アンケート結果を見ると、企業は平均値を重視します。
最も回答が多かった項目。
全体の半数以上が選んだ項目。
年代を問わず評価された機能。
もちろん、それも重要です。
しかし、新しい商品やサービスのヒントは、必ずしも多数派の中だけにあるとは限りません。
少数の人が強く感じている不満。
自由回答に何度も現れる似た言葉。
特定の暮らしを持つ人だけに共通する困りごと。
こうした小さな声の中に、次の市場が隠れていることがあります。
例えば、全体の10%しか答えていない意見でも、その背景に大きな生活変化があれば、数年後には市場全体へ広がるかもしれません。
数字の大小だけで判断すると、その兆しを見逃してしまいます。
自由回答を読んでも、答えはそのまま書かれていない
そこで、多くの企業は自由回答を取ります。
「改善してほしい点を教えてください。」
「どんな商品が欲しいですか。」
「ご意見を自由にお書きください。」
すると、たくさんの言葉が集まります。
軽くしてほしい。
もっと安くしてほしい。
操作を簡単にしてほしい。
種類を増やしてほしい。
しかし、ここにも難しさがあります。
生活者が話した言葉を、そのまま商品にすればよいわけではありません。
「軽くしてほしい。」という声の背景には、
持ち運びが大変なのか。
収納場所に困っているのか。
高齢の家族も使うのか。
外出時に持っていきたいのか。
まったく違う暮らしがあります。
背景が違えば、つくるべきものも違います。
重量を減らすべきなのか。
持ち手を変えるべきなのか。
収納方法を変えるべきなのか。
持ち運ばなくてもよいサービスにするべきなのか。
発言そのものではなく、発言が生まれた理由まで読み解かなければ、ビジネスには転換できません。
「欲しいもの」を聞くだけでは、新しい商品は生まれない
企業はよく、「どんな商品が欲しいですか。」と生活者に聞きます。
しかし、生活者は、まだ存在していない商品を正確に説明できるとは限りません。
知っている商品の延長で答えることが多いからです。
もっと安いもの。
もっと軽いもの。
もっと便利なもの。
色違いが欲しい。
こうした要望は改善には役立ちます。
しかし、新しい市場をつくるには、その言葉の奥にある未充足を見つける必要があります。
例えば、「もっと簡単に使いたい。」という声が出たとします。
本当に求めているのは、操作数の少なさでしょうか。
説明書を読まなくてよい安心でしょうか。
失敗して家族に迷惑をかけたくない気持ちでしょうか。
使う前に考えなくてよいことかもしれません。
ここまで読み解くと、「ボタンを減らす」だけではない、別の解決策が見えてきます。
アンケートのあとに必要な仕事
私は、アンケートが役に立たないとは思っていません。
むしろ、企業の意思決定に欠かせないものです。
問題は、アンケートを取ったところで仕事が終わってしまうことです。
本当に必要なのは、そのあとです。
数字の中から、気になる変化を見つける。
自由回答の中から、繰り返し現れる言葉を拾う。
回答者の年代だけではなく、世帯や暮らしの違いを見る。
なぜ、その答えになったのかをインタビューで確かめる。そして、
商品
サービス
価格
売り方
伝え方
どこを変えるべきなのかを整理する。
ここまで進めて、初めて調査はビジネスになります。
HERSTORYが見るのは、数字と発語の間
HERSTORYでは、定量調査と定性調査を別々の仕事だとは考えていません。
数字で全体を見る。
自由回答から気になる発語を見つける。
その発語をした人の暮らしを確かめる。
なぜ、その言葉が出たのかを読み解く。
そして、企業が実行できる形へ整理する。
私たちが見ているのは、数字そのものだけではありません。
数字と発語の間にある、暮らしの理由です。
例えば、
利用率が低い。
継続率が下がった。
満足度は高いのに、再購入されない。
その数字の裏側には、必ず生活者の選択があります。
その選択の理由を見つけることが、私たちの仕事です。
調査結果ではなく、経営判断まで届ける
企業が本当に必要としているのは、100ページの調査報告書ではないかもしれません。
知りたいのは、
誰を顧客にするのか。
何を残すのか。
何を変えるのか。
次に何をつくるのか。
どんな言葉で伝えるのか。
という判断です。
だから私たちは、調査結果を報告して終わるのではなく、
「この声から、何を事業へ転換するか。」
までを考えます。
数字を読む。
言葉を読む。
暮らしを読む。
そして、ビジネスへ変える。
この最後の工程がなければ、アンケートは資料の中に残ったままです。
おわりに
アンケートを取っても売れないのは、アンケートが悪いからではありません。
数字から、次の行動へ進めていないからです。
数字は、「何が起きているか」を教えてくれます。
生活者の言葉は、「なぜ起きているか」を教えてくれます。
そして、その二つをつなぐことで、「だから何を作るのか」が見えてきます。
調査の目的は、数字を集めることではありません。
企業が、次の意思決定をできるようにすることです。
次回は、「お客様は商品の不満を話しているのではない。」
というテーマで、生活者の発言の裏側にある暮らしについて考えてみたいと思います。
HERSTORY NOTE
アンケートは、「何が起きているか」を把握するために重要である。
数字だけでは、「なぜ起きているか」までは分からない。
同じ満足や不満でも、生活者によって背景は異なる。
生活者の要望をそのまま商品にするのではなく、発言が生まれた暮らしを読み解く必要がある。
調査は、結果を報告して終わりではない。「だから何を作るのか」という経営判断へ転換して初めて価値になる。
HERSTORYは、数字、発語、暮らしをつなぎ、生活者の声を商品・サービス・コミュニケーションへ転換している。
筆者プロフィール

日野佳恵子
女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役社長一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事
島根出身。1990年創業。女性の購買行動とライフコースの関連がマーケティングに影響を及ぼすことに着眼し、女性インサイト理論を独自開発。学習院大学、成城大学、大阪公立大学の専門教授らと「男女の消費行動研究」を発表している。クライアントは生活消費財を中心にメーカーから小売まで幅広く、「女性顧客起点の専門家」として多数の企業のアドバイザーを行う。
<代表的な受賞ほか>
経済紙Forbes Japan「日本の社長100人」、日経WEBCOMPANYが選ぶ「21世紀 時代のキーパーソン51人」、日経ウーマン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003リーダー部門第9位、2013世界女性リーダースティビーアワード銀賞、日本の残したい企業100社、2021Forbes Woman Award300人未満全国第2位など個人、企業活動と両面で広く評価されている。
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