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【第4回】お客様は「商品の不満」を話しているのではない。

9 分前
読了時間: 8分

生活者は、生活、困りごと、家族、時間を話している。



売上は、生活者の声の中にある。 ~生活者の声を、売れる商品・サービスへ転換する実践論~


ある商品のインタビューで、生活者の方がこう話しました。

「これ、もう少し軽いといいんですけどね。」

企業にとっては、分かりやすい意見です。

軽量化が必要なのかもしれない。

素材を変えるべきかもしれない。

持ち手を改善するべきかもしれない。


しかし、さらに話を聞いていくと、少し違う背景が見えてきました。

その方は、商品そのものの重さだけを問題にしていたのではありませんでした。

買い物をして帰宅したあと、荷物を持ったまま階段を上がる。

家に着くと、すぐに夕食の準備を始める。

途中で高齢の母親から電話がかかってくる。

一日中、いくつものことを同時に抱えている。


だから、その商品を持った瞬間に感じた重さが、いつも以上に負担になっていたのです。

その方が話していたのは、商品の重さではありません。

暮らし全体の重さでした。



企業は商品について聞く

企業がお客様に話を聞くとき、多くの場合、商品を中心に質問します。

  • 使いやすいですか。

  • 価格は適切ですか。

  • デザインはいかがですか。

  • 機能に満足していますか。

  • 改善してほしい点はありますか。


もちろん、どれも大切な質問です。


しかし、生活者は商品だけを見ているわけではありません。

その商品を、

  • いつ使うのか。

  • 誰と使うのか。

  • 使う前に何をしていたのか。

  • 使ったあとに何をしなければならないのか。

  • 自分の暮らしの中に置いたとき、どんな負担や安心が生まれるのか。

そこまで含めて判断しています。


企業は商品について聞いています。

一方、生活者は暮らしについて答えているのです。



「高い」は、価格の話とは限らない

例えば、お客様が「価格が高い。」と話したとします。

企業は、値下げを考えるかもしれません。

容量を減らす。

簡易版をつくる。

割引キャンペーンを行う。


しかし、「高い」という言葉の背景も、一つではありません。

効果を実感できるか分からないから、高く感じる。

家族に説明しにくい金額だから、高く感じる。

毎月続けることを考えると不安だから、高く感じる。

似た商品との違いが分からないから、高く感じる。

自分だけのために使うことへ罪悪感があるから、高く感じる。


つまり、「高い」は単純な価格評価ではありません。

納得。不安。家計。家族関係。自己評価。

さまざまな要素が重なって生まれる言葉です。

価格を下げても、理由が解決されなければ、売れるとは限りません。



「面倒」は、操作の話とは限らない

生活者からよく聞く言葉に、「面倒です。」があります。


企業は、手順を減らそう。

ボタンを減らそう。

説明書を簡単にしよう。と考えます。

それも必要かもしれません。


しかし、話を聞き続けると、面倒の正体が別のところにあることがあります。

使い終わったあとに洗うのが面倒。

家族に使い方を説明するのが面倒。

置き場所を考えるのが面倒。

買い足す時期を覚えておくのが面倒。

失敗しないように注意することが面倒。


つまり、商品を使う一瞬だけではありません。

購入前。

使用中。

使用後。

保管。

家族との共有。

すべてが「面倒」に含まれています。

企業が機能だけを改善しても、暮らしの面倒が残れば、生活者の評価は変わりません。



「時間がない」は、分数の問題ではない

「忙しくて使う時間がありません。」この言葉も、企業がよく聞くものです。

すると、3分でできます。時短できます。ワンタッチです。

という商品提案が生まれます。


しかし生活者にとって、時間は単なる分数ではありません。

子どもが話しかけてくる時間。

家族の食事を用意する時間。

仕事の連絡が入る時間。

親の様子を確認する時間。

一日の中で、自分の都合だけで使える時間は、意外に少ないものです。

3分の商品でも、その3分を自分のために確保できなければ使われません。

反対に、10分かかっても、

気持ちが落ち着く。家族と一緒に楽しめる。一日の区切りになる。

という価値があれば、続くこともあります。


生活者が求めているのは、短い時間ではありません。

使える時間、許される時間、意味のある時間です。



生活者は家族との関係まで含めて選んでいる

女性へのインタビューでは、商品について質問しているのに、家族の話が出てくることがよくあります。

「夫が嫌がるので。」

「子どもも一緒に使えるなら。」

「親にも勧めたい。」

「家族に無駄だと思われたくない。」


これは、話がそれているのではありません。

商品を選ぶ理由そのものです。

生活者は、自分一人の都合だけで商品を選んでいるとは限りません。

世帯のお金。

家族の好み。

家の中での役割。

誰が準備するのか。

誰が片付けるのか。

誰に説明するのか。


こうした関係の中で、買うか、使うか、続けるかを決めています。

企業が一人の消費者だけを見ていると、この意思決定の構造を見落としてしまいます。



不満の言葉を、そのまま改善項目にしない

生活者の発言は、商品改善の大切な入り口です。

しかし、発言をそのまま改善項目へ置き換えるのは危険です。

「重い」から軽くする。

「高い」から安くする。

「面倒」だから工程を減らす。

「時間がない」から短くする。


それだけでは、本当の課題に届かないことがあります。

必要なのは、その言葉が出た場面を確かめることです。

いつ感じたのか。

誰といたのか。

その前後に何があったのか。

何と比べたのか。

何を我慢していたのか。

本当は、どうなりたかったのか。

そこまで聞いて、初めて不満の意味が見えてきます。



HERSTORYが聞いているのは、商品ではなく暮らし

HERSTORYのインタビューでは、商品の感想だけを聞くことはありません。

  • 一日の過ごし方。

  • 家族構成。

  • 仕事の状態。

  • 買い物の仕方。

  • 収納場所。

  • 使う時間帯。

  • 誰が意思決定をしているのか。

  • その人が今、どんな負担や願いを抱えているのか。


商品を取り巻く暮らし全体を聞いていきます。


なぜなら、商品の評価は、その人の暮らしから生まれているからです。

私たちの仕事は、「お客様が何と言ったか」を報告することではありません。

「なぜ、その言葉が出たのか」を読み解くことです。


そして、

商品を変えるべきなのか。

サービスを変えるべきなのか。

売り方を変えるべきなのか。

伝える言葉を変えるべきなのか。

ビジネスとして実行できる形へ整理します。



商品に問題がないこともある

生活者の不満を聞くと、企業はすぐ商品を改善しなければならないと思いがちです。

しかし、実際には商品そのものに大きな問題がないこともあります。


  • 使う場面が伝わっていない。

  • 価値の説明が足りない。

  • 生活者が自分向けだと思っていない。

  • 家族への納得材料がない。

  • 購入後の使い方を想像できない。


この場合、必要なのは商品改良ではありません。

コミュニケーションやサービス設計の見直しです。

生活者の声を商品不満としてだけ受け取ると、必要のない改良に費用と時間をかけてしまうことがあります。

暮らしまで聞くことで、初めて本当に変えるべき場所が分かるのです。


おわりに

生活者が話す

「高い。」

「重い。」

「面倒。」

「時間がない。」

という言葉は、商品の評価であると同時に、暮らしの説明でもあります。


その人が、

どんな毎日を過ごしているのか。

何に困っているのか。

誰と暮らしているのか。

何に時間を使っているのか。

その背景を見なければ、本当の課題は分かりません。


企業は商品について聞きます。

しかし、生活者は暮らしについて話しています。

この違いに気づくことが、生活者の声をビジネスへ転換する最初の一歩です。


次回は、「ロイヤル顧客より、離脱顧客に答えがある。」というテーマで、企業がつい聞きやすいお客様だけに聞いてしまう問題について考えてみたいと思います。



HERSTORY NOTE

  • 生活者の不満は、商品だけではなく、暮らし全体から生まれている。

  • 「高い」「面倒」「時間がない」という言葉には、家計、家族、時間、心理的負担が含まれている。

  • 生活者の発言を、そのまま商品改善項目へ置き換えてはいけない。

  • 商品そのものではなく、売り方や伝え方、サービス設計に課題がある場合もある。

  • 企業は商品について聞くが、生活者は暮らしについて話している。

  • HERSTORYは、発言の背景にある生活、家族、時間、困りごとを読み解き、本当に変えるべきビジネス課題を整理している。


第5回は、「良いお客様の声だけでは、成長の限界は見えない」という切り口でまとめます。



筆者プロフィール


日野佳恵子

女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役社長一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事

島根出身。1990年創業。女性の購買行動とライフコースの関連がマーケティングに影響を及ぼすことに着眼し、女性インサイト理論を独自開発。学習院大学、成城大学、大阪公立大学の専門教授らと「男女の消費行動研究」を発表している。クライアントは生活消費財を中心にメーカーから小売まで幅広く、「女性顧客起点の専門家」として多数の企業のアドバイザーを行う。


<代表的な受賞ほか>

経済紙Forbes Japan「日本の社長100人」、日経WEBCOMPANYが選ぶ「21世紀 時代のキーパーソン51人」、日経ウーマン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003リーダー部門第9位、2013世界女性リーダースティビーアワード銀賞、日本の残したい企業100社、2021Forbes Woman Award300人未満全国第2位など個人、企業活動と両面で広く評価されている。




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<連載ページ>

【第5回】ロイヤル顧客より、離脱顧客に答えがある。
【第6回】「聞く」と「読み解く」は、まったく違う仕事
【第7回】お客様の一言が、新しい商品を生む。
【第8回】売れる会社は、「顧客の言葉」で会議をしている。
【第9回】AIは分析できる。でも、お客様の本音は聞けない。
【第10回】次の市場は、いつも生活者の中から生まれる。



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