市場の8割を左右する女性視点マーケティング詳解 vol.27
女性視点マーケティングの第一人者であり、株式会社HERSTORYの代表取締役でもある日野佳恵子による、本連載。第27回目は、ブランドの人格化によって共通認識を可能にしたスープストックトーキョーの取り組みについて解説いたします。
HERSTORYは、女性視点マーケティングを専門に事業を展開しています。この連載記事では、「女性視点マーケティング」の重要性に焦点を当て、具体的な事例を交えてわかりやすく解説していきます。皆様のビジネスに新たな視点やアイデアを提供し、今後の展開に役立てていただける内容となっています。ぜひ、ご活用ください。
ブランドに人格を与えたことによる意思決定への影響
ブランドに人格を与える手法は、社外の理解を得やすいと同時に、社内のいたるところでも影響を与えています。
もっとも大きな成果は、社員全員が「秋野つゆ」すなわち「スープストックトーキョーさん」の目線であらゆる判断をできるようになったことです。
「店がブランドをつくる時って、何万回も意思決定をしなければならない場面があるんです。料理の味、チラシづくり、細かい内装など、すべての意思決定に私が関わるのは、無理な話です。その点、みんなが思い描ける人格があると楽です。秋野さんだったらどうジャッジするかな、装飾より機能を好む彼女なら、飾りがついたきれいな扉より開閉しやすい扉にするだろうなど、全員がぶれずに決断を下していけます」
と遠山さんは説明します。
「秋野つゆ」によって可能にした全社員の共通認識
「同社では入社研修の際、必ずこの「秋野つゆ」について学びます。彼女が心地よく感じる店舗とはどういうものなのかを一から叩き込み、全員が同じ意識でもって現場に臨めるように準備を整えるのです。」
「Soup Stock Tokyo」以外にも、いくつもの事業を抱える多忙な会長に代わって、現場では社員たちがどんどん仕事を進めていきます。ここ10年ほど、遠山さんはスープの試食からも遠ざかっているといいます。
それでもたまに店舗で口にする商品は、相変わらずおいしく、創業時の想いをきちんと継いでいます。それだけ社員たちが会社の目指す方向性を理解し、太い幹となって進んでいるからなのです。
普段はそれぞれ別の部署や職場で働いていても、そこには常に「秋野つゆ」という共通意識が存在します。
そしてこの目線をもとに、あらゆる場面で各社員が判断していくのです。
コロナ禍でも揺るがなかった会社の方向性
コロナ禍でも、遠山さんは社員たちのなかに大きな矢印を感じ取っていました。
非常事態宣言真っ只中の今年4月、全店休業を余儀なくされた同社の売上は、昨年に比べて大幅に落ち込んでしました。そんななかでも、社員たちからほとばしるまっすぐな矢印は、急下降したり予想外の方向へ飛ぶこともなく、穏やかに、しかししっかりと前を向いていたのです。
それぞれ危機感を持ちながらも、自力で何とか乗り切ろうとするパワーを、遠山さんはそこに感じたと言います。
これから必要とされるのは「自ら仕掛ける人」
明確なブランディングのもと、ますます社員の団結力を強める同社ですが、今後どのように歩みを進めていくのでしょうか。
遠山さんは「これからの人は3種類に分かれます。Aはお声がかかる人、Bは自ら仕掛ける人、Cはそのどちらでもない人です。これまでの時代は、Aが大事でした。だから一所懸命勉強をして、必死で学歴を積んで立派な企業からお声がかかるように備えてきたんです。ただ全体の寿命が伸びていく中で、いつまでもお声がかかるかというとそうではありません。そのため、自分から仕掛けて何かを生み出す側を経験したほうがいいんです」
これは店舗にも当てはまります。
いつまでも選ばれ続ける店舗でいるためには、消費者任せにするのではなく、自ら仕掛け発信し続けることが重要なのです。
その点、季節や週ごとに素材が入れ替わり、さらに店舗によっても異なるメニューを提供する「Soup Stock Tokyo」は、消費者を飽きさせない仕掛けづくりに余念がありません。
共通の目線を持った社員たちに、もうひとつ遠山さんが伝えていることがあります。
「それは、自分の暮らしや幸せにも敏感になって、実現のために努力することです。
“自分の人生は自分の手でつかみ取れる”
株式会社スマイルズも株式会社スープストックトーキョーもそんなメンバーの集まりであってほしいと願っています。」
「この20年、単なるスープ屋ではなく、一種のインフラとして世間に定着させることを目指してきました。これからもお客様から『このお店があってよかったね』と言われるような場所にしていきたいですね」。
遠山さんと社員たちの挑戦はまだまだ続きそうです。
Key Point
①ブランドに人格を与えることで社員の目線を同一にする
②各自現場での判断は共通意識のもとに行なわれる
③自分の暮らしや幸せに敏感になり実現に向けて努力する
次回は、DEAN&DELUCA(ディーン&デルーカ)の女性視点マーケティングの事例についてお話しします。
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日野佳恵子
株式会社HERSTORY(ハー・ストーリィ)代表取締役 1990年創業 タウン誌の編集長、広告代理店のプランナーを経て、結婚、出産を機に専業主婦を経験。女性のクチコミ力、井戸端好きに強い衝撃を覚え、広告よりクチコミのパワーが購買に影響を及ぼしていることを確認。一貫して男女の購買行動の違いに着目したマーケティングを実践し、女性客マーケティングという独自分野を確立。多数のコミュニティや実店舗を自ら運営。10万人の生声、3万件に及ぶアンケート分析、5万人以上の男女購買行動を研究。
【著書】
「クチコミュニティ・マーケティング」
「女性たちのウェルビーイング」
「女性たちが見ている10年後の消費社会」等ベストセラー多数。
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