きっかけはSNSの投稿
味の素冷凍食品株式会社が手掛ける「ギョーザ」は、1972年の発売以来、同社の主力商品として多くの消費者から愛されてきました。油・水がなくても手軽に調理できることを強みにしており、国内の調理冷凍食品の中でもトップクラスの売上を誇っています。特にパリパリの食感を楽しんでもらうため、ギョーザの「羽根の素」に注力し独自技術を開発しました。
「誰が焼いてもきれいな焼き上がりになる」ことを目指していたが、昨年のゴールデンウィーク明け、「味の素の冷凍ギョーザがフライパンに張り付いた」というツイートが目に留まった。「張り付いたギョーザの写真とともに、商品パッケージが投稿されているのを見て、公式にきちんと回答をしなければと考えたのが最初ですね」と語るのは、戦略コミュニケーション部 PRグループ長の勝村敬太さんです。
この件をきっかけに、消費者が普段使用しているフライパンでギョーザの焼き方を検証したいと考えました。6月中旬の金曜日にフライパンの送付をSNSで呼びかけたところ、週明けには予想をはるかに超える1,000個以上のフライパンが届いたのです。
「これは大変だと思い、急きょ募集を締め切りました。当初は100個ぐらい届けばいいと考えていたのですが、最終的には3,520個も集まりました。予想外の反響を目の当たりにして、検証結果をきちんと消費者に報告していきたいと思い、パブリックリレーションのアドバイザーとして本田事務所さんにも入っていただき、7月頃からプロジェクトとして開始しました」(勝村さん)
◆KEYPOINT:
消費者の投稿をよくチェックし、その声に真伨に向き合い、商品改良のヒントを見つける
プロジェクト進行や商品改良の過程をオープンに発信することで、ブランドと商品への信頼を生み出す
部署をまたいだ連携、他業種との協力を積極的に行い、問題解決に向けて広く情報を収集する
部署・会社を飛び越えて広がる輪
こうして始まった 「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は、10月13日に公式サイトも立ち上がり、詳しい経緯は「note」で発信することに。
全国から集まったフライパンの開梱現場や、さまざまな状態のフライパンでギョーザを焼く様子、フライパン表面に付着した物質をマイクロスコープで追求する過程など、数々の試みをレポートしていきました。
特にユニークなのは、送られてきたフライパンを3D写真に作り込んでいったことです。
フライパンの表面のみだけでは、ギョーザの焼き具合との関係が詳しく解明できないと考え、フライパンの細かい歪み具合などを把握するため、全方位からの写真を1つずつ撮影。さらに、フライパンの送付元エリアやサイズ・使い込み度などを分類化することで、ギョーザをきれいに焼くのが難しいと集まったフライパンのスペックを、一目で分かるようにしたのです。
こうした情報発信は、勝村さん率いる戦略コミュニケーション部PRチームだけでなく、R&D(研究開発)チーム、QC(品質管理)チームなど他部署からの発信も目立ちます。
「届いたフライパンを調べるのにR&Dチームに相談をしたり、実験機材を持っているQCチームにも協力を仰ぎながら、各部署の知見を集め、連携しながら検証を進めています」(勝村さん)
今回のプロジェクトは、複数の企業が協力している点も興味深いところです。
例えば、フライパンの3D写真を撮影するにあたり、3Dスキャナーの使用方法を指導してくれた株式会社キーエンスや、焼き方のアドバイス・フライパン自体の構造について情報を提供してくれた和平フレイズ株式会社やサーモス株式会社、また張り付きの残っているフライパンに対し洗浄のアドバイスをくれたライオン株式会社を含むさまざまな企業が、それぞれの専門性を駆使してプロジェクトを支えてくれました。
生活者のひとつの声が企業を動かし、他業種まで巻き込んでいったことに、このプロジェクトの勢いを感じますね。
消費者の声に真摯に向き合う
今回のプロジェクトでは、フライパンでの張り付きやすさを追求する傍らで、ギョーザの「羽根の素」にも改良を加えていきました。フライパン表面の付着物を解析し、「羽根の素」に使用する成分の見直しを行うことで、使い込んだフライパンであっても張り付きを起こさないよう工夫を重ねたのです。その結果、12個すべてギョーザが張り付いてしまうフライパンで焼いた場合、張り付きがゼロになったフライパンは26%、1個以上の張り付きが残ったのは46%と改善し、12個全て張り付いたままだったフライパンはまだ28%ほどありました。
今年3月9日、同社では「冷凍餃子フライパンチャレンジpresentsみんなの、新「ギョーザ」焼き体験会」を実施しました。
当日は数多くの応募の中から、一般公募で選ばれた40組が参加してくださりました。会場には親子や友人同士、夫婦などさまざまな参加者が集まり、新しくなったギョーザを焼いていきました。 「焼いたギョーザがきれいにお皿に載った時には、わあっと歓声が上がりました。当社のスローガンに、『感動で笑顔を』という言葉があるのですが、まさに一番見たかった反応を見ることが出来ましたね」と勝村さんも胸をなでおろしていました。
「全てのフライパンで、必ずきれいに焼くのは難しいとは思うのですが、1枚でも多くのフライパンでギョーザがきれいに焼けるようになり、皆さんが喜んでくれることを目指して、まだまだ改良を続けていきたいと思います」(勝村さん)
◆インタビュー:
味の素冷凍食品株式会社
マーケティング本部
戦略コミュニケーション部
PRグループ長
勝村敬太 氏
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