女子旅、家族旅行のニーズに着目
株式会社JTBでは2022年4月の台北を皮切りに、2022年10月からシンガポール、2023年2月からホーチミンで母娘の旅行プランを開始。それぞれ「プチ贅沢(シンガポール)/のんびり(台北)/仲良し(ホーチミン)」という異なるコンセプトを掲げています。
「従来、シンガポールは女子旅が多く、全体の約20%を占めていました。アジアの中では少し遠いイメージがありますが、ヨーロッパよりは近く、街がきれいで治安も良く、初めて海外に行く方でも不安なく過ごせる安心感があります。そこで母娘向けのプランを企画しました」と語るのは、シンガポール企画担当者の西さん。
シンガポールはアジアの中では、比較的予算が必要となる国だ。
「写真映え」が期待できる高級レストランやアフタヌーンティーなど、少しリッチな楽しみ方が魅力。そのため、女友だち同士よりも、金銭的に余裕がある「母と娘」にターゲットを絞り、「プチ贅沢」というコンセプトを打ち出しました。
利用者は「母が50代、娘が20代」という組み合わせが多くありました。
宿泊先も高級ホテルが選ばれる傾向がある。クラブラウンジでは、ホテルによってはアルコールフリーも。そのため、お酒を飲んで語り合い、絆を深めたい母娘にうってつけですね。
◆KEYPOINT:
既存の旅行客「ファミリー・女子旅」という特性から、「母と娘」というターゲットを作る
SNSでトレンドをつかみ、旬なうちに企画から発売まで1カ月程で行う
インフルエンサー動画のみならず、動画LIVE配信も活用し、新しい層にアプローチする
【母娘に人気のアジア旅行のパンフレット】
台湾の戦略は少し異なります。元々、旅行者はファミリーが全体の約60%を占めていました。「日本から近く、物価が安く、食べ物がおいしく、親日で安心」という観点から、家族の中でも母娘に特化したプランが打ち出されました。
友だちと違って気心の知れた家族だからこそ、郊外へ足を伸ばしたり、夜の観光や開運スポットを巡るなど、友人同士の旅行よりもより自由に、少しお金をかけたさまざまな体験ができるという点で差別化を図ります。女子旅では、タイトにスケジュールを詰め込む傾向があるが、母娘旅では、時間にゆとりを持った「のんびり」プランにしている傾向がみられました。
企画から販売までのスピードにこだわる
「スムーズにいけば1カ月程度で企画から発売に至ることもある」と、ホーチミン企画担当者の大門さんは語ります。SNSも活用し最新情報をお客様に提供できるよう日々アンテナを張ってはいるが、トレンドをキャッチしスムーズに企画から発売までおこなうには、現地スタッフの協力も必要不可欠となります。各国に拠点を構え、現地とのネットワークも強いことから、都度のお客様ニーズを踏まえた提案が可能です。
【ホーチミンのサイゴン大教会(2024年4月現在修復工事中)】
例えばシンガポールでは、「ラッフルズホテルで、シンガポールスリングを飲む」という旅程が盛り込まれています。現地の名物のお酒をおしゃれな高級ホテルで飲める、シンガポールならではの体験です。
台湾では「九份へ、夜のJTBオリジナルバスツアー(夜色九份)」を催行。個人で訪れると電車とバスを乗り継いで片道約2時間かかるが、ツアーではガイドと車が用意され、約1時間で移動ができます。また非常に混雑する夕方の時間帯を避け、夜の時間帯に設定することで、自分のペースで散策や夜景を楽しめる工夫もしています。慣れない土地での夜の移動などは個人旅行ではハードルが高いため、ツアーの良さ、ツアーならではの特別な価値がありますね。
リサーチもプロモーションもSNSを活用
リサーチのために企画担当者は現地に出向いて視察を行い、最新情報を現地の支店や現地観光局から仕入れています。他にもテレビや雑誌、SNSから流行やトレンドを追っているのです。台湾企画担当者の大槻さんは「台湾旅行者の投稿を見て、ニーズをつかむこともある」と言う。プロモーションもSNSを活用している。ターゲットは全SNSに共通して、潜在的・顕在的に旅行・お出かけに興味がある人。各SNSのユーザー特性に合わせて、コンテンツを制作。1月に開始したTikTokでは若年層をはじめ、新たなファン層の獲得を目指し、さまざまなコンテンツ展開をしています。
SNSで心がけているのは、現地にいるからこそ分かる最新情報やリアルタイムでの様子などを、コンセプトに沿って継続的に発信することでした。特にコロナ禍においては、海外との往来が難しいなか、現地のいまの様子を発信し続けたことで、お客様とのつながりを保ち、身近に感じてもらうことができ、コロナ後の旅行の申し込みにもつながりました。
公式YouTubeの他にも、インフルエンサーを活用したり、Web動画やオウンドメディアを使ってプロモーションを行うこともあるが、新たなアプローチ手法として、ライブコマース型での動画配信「JTB旅LIVE」を開始。ゲストを招き、ライブ動画配信形式でJTBの商品やサービスの価値・形を「生」の声で伝え、「JTBの旅」を楽しみながら理解いただく新たな取り組みを行っています。初回は「お財布別夏の旅行先特集!」と題し、海外・国内の旅行代金の相場感や、JTBの現地サービスなど紹介し、これまでJTBを利用していなかった層にもアプローチしています。
コロナの影響に加え、インフレや円安で海外旅行が難しい状況となり、以前と比べて旅行に対する価値観も変わってきています。「海外旅行を身近に感じ、海外旅行への意欲を高める」ということを、SNSや動画配信等で継続的に発信することで、潜在的な旅行客の獲得が見込まれます。
◆インタビュー:
株式会社JTB
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