健康意識の高いアメリカで仕掛けた「ホーム抹茶体験」
自宅で茶葉を挽き、淹れたての抹茶を楽しめる「CUZEN MATCHA」。
開発したのは、東京と米国カリフォルニアに拠点を置くWorld Matchaです。現在は「抹茶マシン」と個包装になった茶葉「オーガニック抹茶リーフ」を販売しています。
代表取締役の塚田さんは、元々大手飲料メーカー・サントリー株式会社に長年勤め、「伊右衛門」「烏龍茶」「特茶」などの数々のヒット商品の企画やブランディングに携わってきました。米国に赴任した際、現地で徐々に始まりつつあった抹茶ブームにいち早く着目。会社に掛け合い、抹茶専門カフェ「STONEMILL MATCHA(ストーンミルマッチャ)」を、米国・サンフランシスコに立ち上げた経験も持っていらっしゃいます。
当時の現地の手応えから、抹茶に大きな可能性を感じた塚田さんは、その後退職し、現在の会社を設立しました。「抹茶は米国で根強い人気があります。健康や美容効果をもたらす抗酸化物質や、リラックス作用のあるテアニンを多く含むからです。現地の若者の間でも、サプリメント代わりに飲む傾向が広まっているんです」と塚田さんは語る。しかし、粉末で扱われることが多いため、自宅で毎日飲みたくてもおいしく作るのが難しい。そこでエスプレッソマシンのように、本格的な抹茶を手軽に作れないかと開発したのが「抹茶マシン」でした。
マシンとは言っても、実物はおしゃれなインテリアそのものですね。
正方形のフォルムには、茶室の丸窓をイメージした大きな円状の穴が空き、その中心部には茶筒を思わせるシルバーのパイプが通っています。ここで挽いた茶葉が、水を入れてセットした専用カップに落ちる仕組みです。操作ボタンは抹茶の濃さを選ぶボタンと、動作のON/OFFを調整する2つのみ。ONボタンを押すと、ほんの数分で淹れたての抹茶の香りが室内に漂います。
◆KEYPOINT:
日本の素材(抹茶)をいつでも売り込めるよう海外でのブームにアンテナを張る
商品コンセプトに沿ったデザインとシンプル機能で、手元に置きたくなる商品を目指す
サービスを体験できる場を増やすことで、クチコミの輪を広げていく
禅を意識したデザインと茶葉へのこだわり
高いデザイン性とシンプル操作が際立つ「抹茶マシン」ですが、開発にあたっては苦慮することが多くありました。「そもそもマシンの商品設計が初めてだったので、お客様にとってどんな機能が必要で不要なのかを見極めていくのが難しかったですね」と塚田さんは振り返ります。
とはいえ、茶と禅を意識した商品コンセプトは外したくない。そこでエンジニアやデザイナーに協力を仰ぎながら、無駄をそぎ落とした必要最低限の機能に絞ることに集中しました。水タンクやホースなどを省き、各パーツの洗浄といった手入れの煩わしさも減らしていきました。代わりに、抹茶マシンを置くことで居心地の良い空間になるよう、見た目のデザインと使い勝手の良さにこだわったそうです。「抹茶を飲んでいない時も、このマシンを置くことで茶室を感じてもらえたらと思いました」(塚田さん)
こうしたマシンへのこだわりが実を結び、2020年は世界最大の家電展示会「CES2020」にて イノベーション賞を、続く2021年には「グッドデザイン賞2021」を受賞し、日本国内外で注目される存在となっていきました。
もう1つ、塚田さんが最大限の注意を払うのが茶葉の品質です。抹茶は通常の日本茶と違い、茶葉そのものを丸ごと挽いて飲むものです。米国では野菜を食べる感覚であり、それだけ安全性にも厳しい目が向けられています。こうした消費者のニーズに応えるために「CUZEN MATCHA」で扱う茶葉は全て、農薬を一切使用しない鹿児島産の有機栽培に限定しているのです。加えて、うまみ成分であり興奮を抑える作用も持つテアニンを豊富に含ませるために、被覆栽培も行っています。収穫前の茶葉に覆いをかけることで直射日光を防ぎ、日光で茶葉の苦みが進行しないよう対策するのです。
ペットボトル化に潜むリスクを乗り越え体験の場を増やしていく
「今の日本は急速なペットボトル化により、日本茶の味を大事にする機会が減っています。これは茶葉の生産者にとって苛酷な状況です。『CUZEN MATCHA』の役割は、国産の良質な抹茶への需要を海外で高めることだと考えています。適正価格で商品を買ってもらうことで、日本のお茶作りを支えられたらと思いますね」(塚田さん)
現在マシンと抹茶リーフは、同社の公式サイトや大手通販サイト、デパートなどの公式サイトで購入可能です。これまで世界で8,000台以上が売れ、そのうち8割は米国での売り上げが占めています。
現地での認知度を上げるために、アメリカ発のクラウドファンディング「Kickstarter」(キックスターター)」も活用しました。募集開始から早くも4日目で目標額を達成しただけでなく、ここでの出資者たちが同製品の評判を周囲に広めたことが幸運だったと塚田さんは説明してくださいました。
「やはり一番信用できるのは、実際に体験した人のクチコミ」だという塚田さん。これを受けて今後は、業務用抹茶マシンの開発にも注力する予定です。カフェやレストランなどで「CUZEN MATCHA」のおいしさを知った消費者が、自宅にも導入したいと思えるきっかけを提供し、クチコミの広がりも狙います。「現状は米国と日本に重点を置いていますが、より世界中に広まる仕組みを考えていきたいですね」とさらなる目標を語ってくださいました。
栄養価の高さや美容面で注目が続く日本の抹茶。その魅力を世界に広めるためにも、今後「CUZEN MATCHA」が担う役割は大きいのでしょう。
2024年下期発売予定 CUZEN MATCHA 業務用 抹茶マシン
◆インタビュー:
World Matcha株式会社
代表取締役
塚田英次郎 氏
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