真実は、暮らしの中にある。【第6回】暮らしを見なければ、ブランドは理解できない
更新日:9月3日
AI時代のブランドマネジメント ~AI時代になるほど生活者理解が重要となる~

ある企業の担当者から、こんな質問を受けたことがあります。
「40代女性向けの商品を開発したいのですが、40代女性とはどんな人なのでしょうか。」
私は少し考えてから、こう答えました。
「40代女性は、一人ではありません。」
同じ40代でも、
ひとり暮らしの人
夫婦二人で暮らす人
小学生の子どもを育てている人
高校生の子どもがいる人
親の介護が始まった人
毎日の暮らしは、まったく違います。
だから私は、「40代女性向け」という言葉だけでは、本当の生活者は見えてこないと思っています。
人は年代ではなく、暮らしで選んでいる
マーケティングでは、
20代女性
30代女性
40代女性
という分類がよく使われます。
もちろん、それも一つの見方です。
しかしHERSTORYが35年以上女性の暮らしを見続けてきて分かったことがあります。
人は、年代で商品を選んでいるのではありません。暮らしで商品を選んでいます。
私は、この違いがとても大きいと思っています。
同じ商品でも、意味は変わる
例えば冷蔵庫を考えてみます。
ひとり暮らしなら、コンパクトで十分かもしれません。
子育て中なら、まとめ買いできる冷凍室が必要になります。
夫婦二人なら、食材を無駄なく保存できることが大切になります。
介護中なら、買い物へ行く回数を減らせることが価値になります。
同じ冷蔵庫でも、選んでいる理由はまったく違います。
つまり、生活者は冷蔵庫を買っているようで、本当は自分の暮らしに合った生活を選んでいるのです。
ブランドの意味も暮らしで変わる
ブランドも同じです。
若い頃には、「デザインが好き」だったブランドが、
子育て中には、「安心して使えるブランド」になります。
子どもが独立すると、「もう一度、自分らしくいられるブランド」へ変わることがあります。
ブランドは変わっていません。変わったのは、生活者の暮らしです。だからブランドの意味も変わるのです。
HERSTORYが見つけてきたもの
HERSTORYは35年以上、女性を調査してきた会社ではありません。
女性を通して、暮らしを研究してきた会社です。
仕事、家族、子育て、介護、健康、地域、人との関係。
こうした暮らし全体が、商品を選ぶ理由を変えていきます。
だから私たちは、商品だけを聞きません。暮らしを聞きます。
一日の過ごし方、休日の時間、家族との関係、仕事の状態。
その背景が分かって初めて、「なぜ、この商品が選ばれたのか。」を理解できるからです。
市場は、暮らしから変わる
私は35年以上、女性たちの暮らしを見続けてきました。
振り返ると、市場が変わる前には、必ず暮らしが変わっていました。
物価が上がる前に、まとめ買いが増えました。
家族構成が変わる前に、ひとりで快適に暮らす工夫が増えました。
社会が変わる前に、女性たちの毎日の選択が変わっていました。
だから私は、市場は社会で変わるのではありません。
暮らしから変わる。
この考え方を、これからも大切にしていきたいと思っています。
AIは暮らしを推測できても、観察できない
AIは、企業情報を整理できます。市場を分析できます。生活を推測することもできます。
しかし、今日、どんな気持ちで帰宅したのか。夕食を誰と食べたのか。子どもとどんな会話をしたのか。そんな暮らしの積み重ねまでは分かりません。
暮らしとは、数字ではありません。毎日の小さな選択の積み重ねです。
だから私は、AI時代だからこそ、暮らしを観察することの価値は、ますます高くなると思っています。
おわりに
企業は市場を見ています。私たちは暮らしを見ています。
市場は、暮らしの結果です。暮らしが変われば、市場も変わります。
だから私たちは、これからも、生活者の小さな変化を見続けていきます。
そこに次の市場のヒントがあると考えているからです。
次回は、「AIに選ばれる企業より、人に理解される企業へ」というテーマで、AI時代に企業が本当に目指すべきブランドについて考えてみたいと思います。
HERSTORY NOTE
人は年代ではなく、暮らしによって商品を選んでいる。
ブランドの意味は、生活者の暮らしとともに変化する。
HERSTORYは女性を研究している会社ではない。女性を通して暮らしを研究している会社である。
市場は社会で変わるのではない。暮らしから変わる。
AIは生活を推測できる。しかし、暮らしを観察できるのは生活者だけである。
筆者プロフィール

日野佳恵子
女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役社長一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事
島根出身。1990年創業。女性の購買行動とライフコースの関連がマーケティングに影響を及ぼすことに着眼し、女性インサイト理論を独自開発。学習院大学、成城大学、大阪公立大学の専門教授らと「男女の消費行動研究」を発表している。クライアントは生活消費財を中心にメーカーから小売まで幅広く、「女性顧客起点の専門家」として多数の企業のアドバイザーを行う。
<代表的な受賞ほか>
経済紙Forbes Japan「日本の社長100人」、日経WEBCOMPANYが選ぶ「21世紀 時代のキーパーソン51人」、日経ウーマン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003リーダー部門第9位、2013世界女性リーダースティビーアワード銀賞、日本の残したい企業100社、2021Forbes Woman Award300人未満全国第2位など個人、企業活動と両面で広く評価されている。
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